中学受験は“教育虐待”なのか?②
【第2回】教育虐待をしてしまう親の“3つの脳内バグ”
前回は「中学受験は教育虐待か?」という話で、殴らなくても“長時間勉強の強制=セルフ懲役”は十分に虐待にあたる、という話をしました。今回は一歩踏み込んで、**なぜ親はそこまでしてしまうのか。** 塾長としていろんな保護者を見てきた経験から、自己分析してみます。
結論から言うと、教育虐待をしてしまう親の脳内には、だいたい共通する“バグ”があります。大きく3つ。
バグ①:価値観が狭い
ひとことで言うと、価値観が狭い。これは絶対にあると思います。
教育虐待に走りやすい親は2タイプ。**自分が高学歴で勉強ができたから、子どもにも同じルートを歩ませたい人。そして**リベンジ型。** 自分が勉強できず、学歴で悔しい思いをしたから、子どもに高学歴になってもらってコンプレックスを晴らしたい人。
両方に共通する問題は、「高学歴になる以外に、人生で幸せになるルートがない」と思い込んでいること。これが狭い。
確かに確率論では、難しい学校に行った方が就職の選択肢は広がるし、大企業に入りやすく、高収入になりやすい。お金は幸せに必要です。でも、例えばの話。仮に裏技を使って、本人の実力に全く合わない年収1200万の外資コンサルに入れたとして、その人は幸せでしょうか。たぶん仕事についていけず、心を病みます。それより、向いている仕事で「社会の役に立っている」という実感を持ちながら年収400〜500万をもらう方が、健全に続けられるはずなんです。
昭和のサザエさんを思い出してください。そんなに豪華な食事じゃないかもしれないけど、家族で団欒する時間がある。一方で、超高収入の外資に勤めるお父さんが夜中1時まで働いていて、会えるのは月1回。タワマンには住めたけど、子どもは父がつけた外注の家庭教師と過ごす毎日。どっちが幸せなんだろう、という話です。
幸せの形は世の中にいろいろある。大きな病気もなく元気にここまで育った、それで十分じゃないか――そういう相対化ができていない。「東大でなければ人間じゃない」みたいな狭い世界で生きてしまっているんですね。
バグ②:子どもは“コントロールできる/していい”と思っている
もう一つやっかいなのが、**子どもは自分がコントロールできるし、コントロールしていい、と思っていること。**
「こう言ってもやってくれないんです」「勉強する魔法の声かけを知りたい」という相談、よくあります。これ、ゲームのキャラクターみたいに、後ろからコントローラーで「右に行け」と言えば右に行く――そういう前提なんですよね。子どもが自分とは別人格だ、ということが理解できていない。
自分の従属物だから思い通りに動かせるはず。だから受験に失敗したら「コントローラーを握っていた自分の責任」だと思うし、逆に「俺が最高のプランを立てて東大や医学部に行かせてやる」とも思う。完全にコントロール厨です。
でも、そもそも思い通りに動かしていいのか。自己決定権を奪われ、人に決められ続けた人間が、はたしていい人生を歩むのか。その視点が抜けている。だから「成長できればいい」「勉強の仕方を学ぶ機会」ではなく、「勝つしかない」になってしまう。挙げ句、ゲームのキャラ扱いで「寝ずに勉強しろ」まで行ってしまうわけです。
バグ③:才能の限界に絶望していない
3つ目。こういう親は、**子どもの才能の限界に絶望していない。**
「うちの子は才能があるから開成も狙える」と思っているかもしれない。でも、はっきり言います。**寝る時間を削って受かったなら、それは“そこまでの才能じゃなかった”ということ。** 本当に才能がある子は、ちゃんと寝て受かります。睡眠を削っての合格は、本来そこまでの才能じゃなかった子を、無理やりストレッチして受からせているだけなんです。
一部の超天才児を除けば、誰にでもどこかに才能の限界があって、できないことはある。努力で全部は解決しません。「努力で解決しないのに、なんでできないんだ」と責めてしまうのは、“やればできる信仰”に陥っているから。
やってもできないことはある。「我が子の才能は今ここまでかもしれない」。そう認められたら、次は「じゃあ、この子にとっての幸せは? 勝ち筋は?」と考えてあげられる。この子はこういう特性で、こっちが向いている、と。東大に行かなくても、人生は負けじゃないんです。
結論:22時までに寝て行ける学校に行け
本当はコントロールできないものをコントロールしようとして、結果が出るはずだと思い込む。だから言うことを聞かないと「ご飯を抜く」「殴る」と脅す。教育虐待は、この“脳内バグ”の究極系なんです。
だから僕の結論はシンプルです。**「22時までに寝て行ける学校に行け」。**
22時まで全部の時間を勉強に充てるんじゃなくて、家族で団欒したり、好きなことでリラックスする時間もちゃんと取る。朝5時に起こして勉強させる、もう教育虐待です。
中学受験=教育虐待ではないけれど、なりがちなのは事実。だから保護者の方は、ぜひ一度「自分もそうなっていないか」を自問してみてください。
そして、まわりの「5時に起きて勉強させてます」という話を聞いて、「うちもやらなきゃ負けるかも、でもこの子眠そうだな」と揺れている方へ。**やらなくていいです。** やらなければ行ける学校のランクは1個落ちるかもしれない。でも――子どもを虐待して1ランク上の学校に行かせたいのか、虐待せずに分相応の学校に行きたいのか。どっちですか。
僕は、虐待してまで学校のランクを1個上げることには賛成しません。ちゃんと寝て、人としてのバランスを保って、できる範囲で頑張って、受かったところに行く。長い目で見れば、その方がまっとうに育つと思います。
短期的には、子どもが反抗しない時期だからこそ、虐待的にやれば“勝てて”しまう。でも長期で見ると、うつ状態、人を信じられなくなる、愛着形成の不足など、いろんな影響が出るとも言われます。そこまでして1ランク上、行きますか?
「ここまでやらないと受からないなら、いっそ撤退する」――それくらいのバランス感覚の方が、実は健全かもしれません。ちょっと過熱しすぎなんです。まともなバランス感覚を見失わずに、うまく受験と付き合っていきましょう。
――というのが、なるちゃんからのメッセージでした。
hamasakiacademy1
